離婚裁判の通訳


心をつなぐ日英通訳&英語コーチの片桐美穂子です。

 

 

ブログの読者さんや英語コーチングのクライアントさんからよくこんな質問を受けます。

 

 

 

 

 「毎回異なる分野の通訳がなぜできるのですか?」

 

 

 

フリーランスの通訳は、教育、芸術、IT、経済、金融、医療、エンタメなどなど、本当に様々な分野の通訳をします。それができるのはすべての分野に精通しているからではありません。、事前に本やインターネットで背景知識を入れ、お客様から送られてくる資料をじっくり読んで、準備をするからです。



 

英語ができるからと言って、どんな専門分野でも即座に通訳ができるわけではありません。通訳は言葉の専門家ではあっても、その分野の専門家ではないので、内容を理解した上で、話し手のメッセージを的確にとらえた通訳をするためには、事前準備がとても大切なのです。

 

 

今日は、通訳の事前準備の例をひとつ紹介しますね。離婚裁判の通訳です。



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離婚裁判の通訳をしてきました。

 

 

この仕事をするにあたり、1冊の本がとても役に立ちました。記録しておきたいと思います。

 

 

私は、地元の地方裁判所登録の法廷通訳人でもあります。これまでに、刑事裁判の通訳経験はありますが、今回初めて家庭裁判所から離婚裁判での通訳依頼を受けました。最初は非公開の離婚調停の通訳かと思っていたのですが、調停が不調に終わったご夫婦の離婚裁判での通訳とのこと。傍聴人がいる裁判です。

 

 

ここで、離婚裁判に至る流れをごく簡単に説明しておきます。

 

 

 

離婚したい夫婦の間で協議離婚がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。しかし、それでも離婚成立に至らなかった場合、どうしても離婚したいなら、裁判所に離婚の訴えを起こします。これが離婚裁判です。

 

 

 

被告人が全裁判日に出頭する刑事裁判とは違い、離婚裁判(民事裁判)は、原告や被告に弁護士が代理人としてついた場合は、その代理人だけが裁判所に出頭すればよいので、原告や被告が毎回法廷に行く必要はありません。

 

 

 

私が依頼を受けたのは離婚訴訟の最終局面である本人尋問という部分でした。弁護士と裁判官が原告と被告に質問します。その質問と答えを訳すのです。原告に英語の通訳が必要で、被告は日本人とのことでした。

 

 

 

自分の担当は全裁判中の一部分であっても、通訳として、それまでの過程を理解しておく必要があります。裁判所に関連資料の送付を依頼しました。しかし、今回は諸事情から資料のコピーを裁判所外に出すことはできないので、公判当日、開廷の1時間前に裁判所に来て、読んで欲しいとのことでした。

 

 

 

資料の枚数を聞くと、A4で約150枚あるとのこと。開廷の1時間前では読みきれないと判断し、書記官にお願いして事前に裁判所に行き、読ませてもらうことにしました。これが裁判の2日前・・・。

 

 


 

 裁判所で読んだ資料は、

 

・訴状

・答弁書

・第一準備書面(原告側、被告側)

・陳述書①②(原告側、被告側)

・証拠説明書(原告側、被告側)

 

 

重要事項のメモを取りながら読み、約3時間かかりました。これで、裁判の背景や出てくるだろう専門用語も大体見当がつきました。この時点での疑問はすべて書記官に聞き、回答をいただきました。

 

 

 

幸い次の日はオフで、1日空いていたので、出来る限り準備をしようと決めました。初めての分野の時は入念に準備をします。

 

 

 

ただ、困ったことがありました。私は、通訳の勉強も兼ねて、刑事裁判は何回も傍聴していますが、民事裁判、ましてや離婚裁判の傍聴をしたことがありません。どのような質問が両弁護士、裁判官から出るのか具体的なイメージがつかめません。書記官に問い合わせましたが、私が担当する裁判までの間に、地元の家庭裁判所では離婚裁判の予定はなく、実際に法廷を見るのは不可能でした。

 

 

 

そこで、帰宅してすぐ、インターネットで検索。 「離婚 裁判 本人尋問」と入れて、探しました。しかし、本人尋問の一部を取り上げたものや、裁判経験者の感想がありましたが、私が最も知りたい法廷での質問と回答の具体的なやりとりを記載したものはありませんでした。

 

 

 

1時間半ほど探して、もうそろそろ諦めようと思ったとき、「今度、離婚裁判中の夫の役を演じるので、荘司雅彦さんの本の法廷シーンを読んで研究しています」という、劇団員のブログを見つけました。

 

 

そこで、さらに本を検索すると、『小説 離婚裁判』という本にたどり着きました。荘司雅彦さんという弁護士さんが書かれた小説でした。法廷経験豊富な弁護士さんの本!期待が高まります。アマゾンに注文したのでは間に合わないので、次の日の朝、近所の本屋に電話。この本の在庫があるとのことだったので、急いで買いに走りました。

 

離婚裁判

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅して読んでみると、ありました、4章に。私が最も知りたかった本人尋問のリアルなやりとりが。相手側弁護士の質問は、私の想像よりずっと厳しいものでした。かなり感情的な言葉が出る場合がある覚悟も出来ました。

 

 

本のお陰で具体的なイメージがつかめたので、資料を元に、私が通訳する案件で想定される原告側弁護士、被告側弁護士、裁判官の質問、それに対して予想される原告、被告の回答をすべて日本語で書き出しました。次にそれを全部英語に直します。想定問答の作成は他の通訳案件の準備でもやりますが、私はこの作業が結構好きです。

 

 

単語リストも作成。法廷で出て来そうな単語、専門用語はすべてリストにし、見やすいように大きめの字でプリントアウト。昭和、平成の年号が多数出てくることが予想されたので、換算でもたつかないように、すべて西暦に直して一覧表にしました。自分ができる最大限の準備が完了しました。

 

 

さて、裁判当日。裁判官、書記官と打ち合わせをして法廷へ。通訳人の宣誓、原告の人定質問を経て、本人尋問が始まりました。

 

 

あとはただ、弁護人、裁判官の質問は日英で、原告の回答は英日、全力で訳していきます。証拠として提出された写真は通訳の手元にはなく、通訳席からは写真が見えないので、弁護人が写真を見ながらする、「ここのこの印は何ですか?」などの質問は意味を確認しながら訳します。

 

 

法廷での通訳で難しいと思うことのひとつは、相手側弁護人の質問です。普段、相手が非常に返答に困るような質問を立て続けにすることはほとんどありませんから。そして、原告、被告、弁護人、裁判官と利害の異なる人の言葉をすべてひとりで訳すのは、通訳力に加えて、気力も体力も必要です。通訳席は書記官の隣で、裁判官だけは見えません。裁判官の声は後ろの高いところか聞こえてくるので、それを英語にします。

 

 

前日までの準備が大いに役に立ちました。資料を隅から隅まで読んだので、法廷での細かいやり取りの意味が手に取るようにわかります。本人尋問のパターンも本とよく似ていました。かなり感情的な発言も多々ありましたが、その感情も伝わるように集中して訳しました。

 

 

帰宅後、「離婚裁判」の本をじっくり読みました。私は、この本からモラルハラスメントがどういうものであるかを初めて知りました。

 

 

この仕事の後、本の著者の荘司さんとツイッターでやり取りをしたのですが、本の本人尋問の部分は、荘司さんが弁護士として法廷で見聞きしてきたことをもとに書かれたそうです。だからリアルなんですね。裁判の手続きもわかりやすく書かれている本ですので、興味がある方は是非!

 

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今回紹介したのは事前資料がきちんとあったケースですが、事前資料がない、または、少ない場合もあります。そういう時は、自分で予想を付けて色々調べるのですが、いざ現場に出ると、全く違うトピックだった、当日会議室に入ったら、机の上に分厚い資料がどんと置いてあったということも。そんなときは、事前にもっと準備できれは、もっと適切な通訳ができたのにと残念な気持ちになります。

 

 

通訳を介した会議、イベントが成功するように、通訳には是非事前に資料を提供してくださいね!

 

 

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